1年越しの後輩へ
後輩へ
もう会わなくなってから1年経つけれど、そっちではどうしてる?
忙しかったりするのかな。
最後に会ったのは12月31日だったと思う。
あの日の朝、私は先輩の旦那さんが出してくれた車に乗って、先輩2人と君の地元に向かったよ。
豪雪地帯と評判なだけあって、辺り一面真っ白だった。
高速道路を走りながら、君が毎朝高速バスで出勤する時はこの景色を見ていたんだろうなという話を先輩たちとしてたんだ。
空はとても晴れていて真っ青で、その青空と一面に広がる雪原と、枝に乗った雪が美しい木々を見ながら向かったよ。
毎朝ここを通ってたんだね。
朝6時くらいに出て、高速バスに乗って、駅で朝ごはんを食べてから出勤してるって君から聞いたことがあった。
君が毎朝見ていた景色を見て、私たちは最後の挨拶をしに君の地元に行ったんだ。
眠るように棺に入っている君を見て、私たちは本当に本当に泣いた。
多分1年で1番泣いた。
君の初めての後輩の子がその場で泣き崩れそうに泣いていたのを私は覚えてる。
君の友達もたくさん来てくれていたね。
どれだけたくさんの人たちに愛されていたのか、大切にされていたのか、私たちの知らない君がたくさんいるんだということに、私たちは驚きつつ微笑ましく思ったよ。
そして一緒に働くことが出来て良かったと心の底から思えた。
そんな告別式だった。
あの後君の後輩の下に更に新人たちが加わったんだ。
みんな個性豊かで、最初は私たちも教えるのに手間取ったし、思うように進まなくて悩んだり愚痴を言い合ってしまうことも多かったけど、今はもうみんなしっかりと私たちの一員として働いてくれてる。
君ならどう仕事を教えたんだろう。
君の後輩にそうしたように、優しく丁寧に教えてあげたんだろうか。
去年の中頃、私は同期と先輩たちとで、君の家に遊びに行ったよ。知ってると思うけど。
君と同じように高速バスで行ったんだ。
バス停で待っててくれた君のお母様は君にそっくりで、告別式のあの日泣き叫んでいた姿と重なった。
明るく私たちに話しかけてくれて、来てくれてありがとうございますと何度も何度も言ってくれた。
その日はずっと君の家で、君のお母様と、君の話をしたんだよ。
とっても素敵な家だった。
仏壇も特注で完全木製。
「こんなことしか私達にはできなくて」とお母様は仰ってたけど、とても綺麗だった。
仏壇の周りには君の写真がたくさん貼ってあった。
幼い頃の写真や、大好きだった弟さんとの写真。
その中に、私が撮った君の写真も貼ってあったんだ。
あれは春、みんなで遅いお花見に行った時の写真。
円山公園の大きな木の幹に抱きついている君の写真。
私が撮った写真が、今の君の周りに大切に貼られている1枚になっているということがとても嬉しくて、そこでもう泣きそうになってしまった。
「あの子はよく失敗する子でたくさん迷惑をかけたと思います。でも「新しい人が入ってくる予定だから、自分の失敗を元に教えてあげるんだー!」とよく話していました」とお母様は教えてくれた。
そうだね。
君はきっとそうやって教えてあげたんだろう。
君の後輩にしたように、新人たちにもそうしたんだろう。
一緒にお邪魔したメンバーには君の唯一の後輩もいたけれど、深く深く頷きながら聞いていたよ。
あと、元チーフにいじめられていた話もした。
本当に嫌で嫌で、君は実はもう辞めようかと思っていたらしいね。
私もいじめられていた身だったから話を聞いてきたつもりだったけど力になれていたんだろうかと思って、お母様にそう伝えたんだ。
そしたら
「あぁ…あなただったんですね…」と微笑んでくれた。
君はお母様に、1人自分もそうだったらしいからと話を聞いてくれる先輩がいると言ってくれていたらしいね。
あの時のお母様の、何とも形容し難い微笑みは多分忘れない。
少しでも君の力になることが出来ていたのなら良かった。
君の大好物だった春巻きも出してくれたよ。
私たちよりも前にお邪魔していた君の同期たちは早速お母様から教えていただいたそのレシピを元に作ったらしいし、君のLINEに写真を送ってお母様に見せたみたいだよ。
私もあれめちゃくちゃ美味しかったから作りたいんだけど春巻きの皮なんて買ってこないと無いや…。
でも今年か来年には絶対に作りたい。
帰り道、近所の公園を通りながらお母様は思い出話をたくさんしてくれた。
「あそこの公園のベンチで夜彼氏と仲良くしてるのを近所の方に目撃されて私報告受けたんですよ」とかお母様は笑いながら話してくれたけど、お母様の中の時間は本当に止まったままだった。
バスに乗って帰る私たちを見送ってくれたお母様は寂しそうに見えた。
あの大きな家で、君の家族は君のいない日々を過ごしている。
君の存在は今でも私たちの中にずっとある。
君の誕生日には新人たちを除く既存スタッフ全員でごはんを食べに行って、君へ「誕生日おめでとう!」の乾杯をした。
先輩たちが卒業する日、先輩の希望で君宛てのムービーも撮った。
どちらも君のLINEに送ったから、もしかしたら見てくれたかもしれないね。
卒業と言えば、私も次の秋で卒業するよ。
次は君たちの代が最上級生だ。
「次は1番上なんだから、自分らしくしっかりと頑張るんだよ」と君に言葉を残したかった。
君にも見送ってもらいたかった。
君とはお互いおっちょこちょいだからチームを組んでたし、よくふざけあっていたから。
私の卒業するその日まで君と働きたかった。
新人たちには特に伝えてないけど、君の名前と、こういうおっちょこちょいで頑張り屋な人がいたんだよという話は何度も伝えている。
だけど君のお母様が遊びに来てくれた日や、大きな菓子折を休憩室に置いてくれた日、新人たちは「何故?その人は今どこにいるの?」ってなってたから、もし勘のいい人がいたら察しているかもしれない。
契約上の君はもういないけれど、君の同期たちが卒業するまで君は在籍している。
あれから1年。
短いようで、長いようで。
もっと前だった気もするし、あっという間だった気もするし。
いろいろなことがあった。
本当にたくさんあったんだよ。
それを一緒に乗り越えることが出来なくて私は悲しかったけれど、きっとどこかで君は私たちを見守ってくれているのだろうと思ってる。
みんなそれは思ってる。
今は年下も増えたけど、この職場では君が初めての年下の後輩だった。
私の可愛い後輩だった。
一緒にふざけたり、写真を撮ったり、失敗したり注意したり。
私のことが面倒くさく感じることもあったと思う。
それでも私は君との思い出を忘れないように、楽しかった日々を忘れないようにしている。
2017年末。
10年以上前に祖父たちが亡くなった時以来、ものすごく久しぶりに身近な人が遠くに行ってしまった。
1ヶ月くらい後に心を整理するためにここで文章を書いた。
そして今日はまる1年。
近況報告をと思ってまたここでこうして書いている。
昨日の帰り私の同期と君の話をしたよ。
君は最後までおっちょこちょいだったから、私たちに別れの言葉を言わせてすらくれなかった。
でもそれは君もそうだと思う。
君だってたくさんの人たちに言葉を残したかったと思う。
お母様が教えてくれた君のSNSには、前日まで仲の良い人たちとのやりとりや、美味しそうな食べ物の写真がたくさん残されている。
突然のことだったから仕方がないね。
君の誕生日にはLINEのホームにたくさん投稿が来ていたね。
私たちと同じく、君の誕生日パーティーをしてくれた人たちもいたみたいだ。
生前何か失敗すると君はすぐ「死にたい…」って呟いていたけど、君のまわりの人たちは君のことをこんなにも愛していたんだよということが少しでも伝わっていればいいなと思う。
今年の頭。
君の残した仕事が相変わらずツッコミどころがあって、先輩と休憩室で笑いながらその話してた時。
突然、立てかけていたチョコの入っている大きな箱から大きな音がして、恐る恐る中身を見たら綺麗に並べられて収まっていたチョコが箱の中で全部落下していた事件。
あれはね、偶然かもしれないんだけど、あまりにもタイミングがタイミングだったので私と先輩の間では君がやったことになってるよ。
いや、分からん。本当に偶然だったんだろうけど、何となく君もそばにいるような気がした。
朝の仕事で私が見て回っている時、何となくいつもと違う順序でやりたくなって実践したところ、機材が故障していたのが分かった事件。
いつもしっかり理由を持って順番を決めていた業務なのに、本当に何となくふと順番を変えたくなってやったら発覚。
しかも早い段階で発覚したからすぐに対応できたけど、いつもの順序なら恐らく間に合わなかったような故障。
あれも私たちの中では君のおかげだと思ってる。
不思議なことがあるたびに勝手に君の存在を感じてるから、もしかしたら
「藤美さん〜〜!私そんなことやってないですよ〜!!てかできませんよ!!」
とか言うんだろうな。
今後も勝手に君の存在を感じていく予定だからよろしく。
言いたいことがもしあるなら何とか伝えてくれるとありがたい。
暇な時、気が向いた時で良いから、たまには職場にも遊びに来るんだよ。
この1年。
伝えたかったことや言いたかったことをこれで書くことが出来た気がする。
もちろん足りないんだけど。
昨日同期と、君がもういないのは分かっているんだけどどうしても長期休暇か何かだと思ってしまうという話をしたんだ。
ひょっこり現れて
「おはようございます〜!長い間お休みありがとうございました〜!!」って言いそうで。
私は
「えー!めちゃくちゃ久しぶりじゃん!ほんとどこまで旅行行ってたのよ〜お土産はあるんでしょうね!!」って言うから。
そしたらたくさんのお土産を抱えて
「もちろんです!もーほんとに長いお休みありがとうございましたすみません〜!!」って笑うんだ。
今日は君の命日。
私だけシフト上お休みなんだけど、出勤のみんなは君のことを想いながら働いてると思う。
今日の君はきっと忙しいだろうけど、落ち着いたら遊びに来てほしい。